top of page
執筆者の写真茂野 博起

2024年相続税制改正で『相続時精算課税制度』が注目を集める理由

2024年1月から生前贈与財産の持ち戻し期間が、3年間から7年間に伸びました。

この法改正は、一般的には相続税の増額を意味します。

それに伴い、より柔軟な相続対策が求められる時代となりました。その手段の一つとして『相続時精算課税制度』の活用があげられます。

本稿では相続税制の変更点についてと、今後の相続対策の有効手段となり脚光を浴びる『相続時精算課税制度』について記してまいります。


生前贈与持ち戻し期間3年間から7年間に伸長されたことが、相続時精算課税制度が脚光を浴びる要因に

『相続時精算課税制度』に注目が集まる要因として、相続税制の改定があったことは冒頭で触れました。

生前贈与財産の相続税への持ち戻し期間の伸長は、相続対策に大きな影響を与えます。

それは実質的な相続増税を意味するからです。


【図表A】

出所:(国税庁HPを参照)筆者作成



暦年贈与の持ち戻し期間は段階的に伸長され、令和9年度からは、現行の死亡以前3年から7年間の贈与分が相続税に持ち戻されることになりました。


これは下の世代に贈与税が掛からない範囲で計画的に資産を移していた人にとっては、相続対策の練り直しを余儀なくされる法改正だったといっても過言ではありません。

この法改正は相続対策の取捨選択数の観点から、より早い段階から相続対策を行う必要性がでてきたことは明確です。

そこで注目される制度の一つとして、比較的短期間で多額の保有財産を一定金額まで非課税贈与が可能な『相続時精算課税制度』があります。


相続時精算課税制度の概要と仕組み

「相続時精算課税制度」とは、受贈者(子や孫)が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。 また、2024年1月からは、年間110万円の基礎控除が創設されています。

【図表B】

出所:一般法人全国銀行協会参照筆者作成



相続対策として一般的なのが、贈与税の基礎控除(年間110万円以内)の範囲内で毎年贈与を継続していくことです。これは受贈者である子や孫に税負担を掛けず、保有財産を移していけますので、相続対策の軸として位置付けても差し支えありません。

つまり贈与税の非課税枠を活用しながら子や孫に財産を移し、相続財産を生前のうちに減らしていくことで、相続税の軽減が図れます。

ところが贈与税の基礎控除の範囲内の暦年贈与に収まらない財産を保有する人もいるはずです。

またこの先何年にもわたって、贈与していけるだけの時間に限りが見いだせない人もいることでしょう。

そこで選択肢に入ってくるのが相続時精算課税制度です。

2024年1月の相続税制の改正で、従来の累計2,500万円までの部分に対する非課税部分に加え、年間110万円までの贈与税の基礎控除も併用できるようになりました。

より使い勝手がよくなった相続時精算課税制度ですが、そのメリットとデメリットは何か。一体どのような人が制度活用に適しているかを考えてみます。

メリット・デメリットは下記のとおりです。


相続時精算課税制度活用のメリット・デメリット

贈与税基礎控除110万円分も併用できるようになり、より使い勝手がよくなった相続時精算課税制度。しかしメリットだけではなくデメリットもあります。

相続時精算課税制度のメリット・デメリットを下記でまとめてみました。


メリット

相続時精算課税制度のメリットは主に下記の3つです。


1.2,500万円までは非課税で贈与できる

相続時精算課税制度は受贈者(子や孫)一人につき2,500万円までが非課税で贈与できます。

比較的まとまった資金を子や孫に贈与する場合に適しているといえるでしょう。


2.2,500万円の超過贈与分も一律20%で課税

相続時精算課税制度は受贈者一人あたり2500万円までは非課税で贈与できますが、それを超える贈与額に関しては一律20%で課税されます。

贈与税率と比較しても低い税率であることから、活用を検討する余地はでてくるのは必然です。


3.遺産分割トラブルを事前に回避できる

相続トラブルが増えています。それは相続後に遺産分割を不透明な状態で行うことから生じます。生前に目に見える形で財産を分割しておくことが、相続トラブル回避の最短経路です。相続時精算課税制度を活用することは、わかりやすく平等に生前贈与を可能にしてくれます。


デメリット

魅力的に映る相続時精算課税制度ですが、諸刃の剣となりかねないデメリットもあります。


1.相続時精算課税制度の利用を選択すると暦年贈与ができなくなる

もっとも注意する点は、相続時精算課税制度を一度でも選択すると、暦年課税への変更が出来なくなる点です。

これは相続対策面で柔軟性を失うことを意味します。贈与総額に対する贈与税率や相続時精算課税制度選択時の優位性の比較検討が求められます。


2.贈与税の申告義務が生じる

贈与税の基礎控除内(年間110万円以内)の暦年課税であれば、申告の必要はありません。ところが下記のとおり、相続時精算課税制度は申告が必要です。

相続時精算課税を選択しようとする受贈者(子または孫など)は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍の謄本などの一定の書類とともに提出する必要があります。

引用:国税庁

相続時精算課税制度は暦年課税と比較しても、手間が掛かることがわかります。


3.小規模宅地の評価減特例との併用ができない

不動産の相続が生じる場合にも注意が必要です。

「小規模宅地の評価減特例」は、居住用宅地であれば、その評価額を一定面積まで8割縮減できる特例です。

相続対策として有効となる特例や制度の活用は、何を優先するかでその選択も大きく変わります。


【図表C】

小規模宅地の評価減特例

出典:国税庁


何を活用するかは、不動産の生前贈与財産の有無の確認からとなるでしょう。

相続時精算課税制度の活用に特に適した人

相続時精算課税制度は贈与税や相続税が非課税になるという制度ではありません。被相続人が亡くなったときは、基本的には贈与された財産を含めて課税相続財産として相続税はかかってきます。ただし相続時精算課税制度の活用次第では、相続税も非課税にできる可能性もでてきます。

それでは相続時精算課税制度を活用するのに向いているのは、一体どのような人なのでしょうか。

下記にまとめてみました。


1.相続財産が相続税の基礎控除の範囲内である

相続時精算課税制度は相続税が非課税になるわけではありません。あくまでも贈与時における贈与税の繰り延べです。

被相続人が亡くなった時に、その繰り延べされた贈与財産を清算・納税しようとする場合、相続税の基礎控除内(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に収まる金額の贈与金額であれば、相続時に課税されることはありません。


2.贈与税の基礎控除110万円以上の贈与をすでに行っている人

贈与税の基礎控除額(年110万円)の贈与を行っている人も、相続時精算課税制度の活用を考えても良さそうです。

贈与税は基礎控除を上回った部分が累進課税となり、それが大きくなればなるほど税率が大きくなり、納税額も大きくなります。

なお贈与税の最高税率は55%です。


3.評価額が上昇しそうな財産を保有している人

評価額が上がりそうな財産とは、株式、絵画そして土地などが良い例です。

相続時精算課税制度で贈与された財産は、贈与時の評価額が基準となり、相続時に値上がりしていたとしても、相続財産の課税金額は抑えられます。


4.収益を生み出す財産を保有している人

家賃収入を生み出す賃貸アパートなど、収益性のある財産を相続時精算課税制度で贈与することで、その収益は子や孫が受け取ります。

収益性のある財産を保有し続け、定期収益をそのまま受け取り続けることは、相続財産に組み込まれ、相続時の財産が増加するのは明らかです。そのような場合は、相続時精算課税制度を活用し、収益性のある財産を子や孫に贈与することで、継続的に生じる定期収益を早い段階で子や孫が受け取ることができます。


保有する財産はどういったものかを整理し、制度活用をじっくりと計画的に行うことが、相続時精算課税制度活用において重要であることがわかります。


相続対策として相続時精算課税制度を軸として考える時代が到来

生前贈与の持ち戻し期間が3年から7年に延びました。それに伴い、遠い将来のことと感じていた相続対策は、より早期に準備する必要性がでてきています。

2024年1月の法改正で、相続時精算課税制度が相続対策として、今後さらに活用されるはずです。本稿が相続時精算課税制度の活用が、ご自身やご家族の相続対策に有効かを検討するきっかけとなったのであれば幸いです。一度FPや税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。


Comments


新着記事
New article
bottom of page